死にぎわの最後の吐息のように消えそうな声が、かすかにすすり泣きながらジャニーの名前を呼んでいた。
声は樺の木の中に消えていった。
「トリルビー!……」とジャニーは叫んだ。
そして墓穴をいくつもとびこえて、おそらく彼女を待っていたにちがいないその墓穴に身をおどらせた。
人は自らの運命を思いちがえることはないのだ!
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ジャニーの墓の上にのせられた石だけは時の作用にも、天の災いにも、人の災いにさえも損なわれずに残っていた。
そこにはいまも、敬虔な手で刻まれたつぎのような文字が読みとれる。
「永遠に離れられないものにとって、地上の千年は一瞬でしかない」。
「聖者の木」は枯れてしまった。
しかし、その力尽きた根株から、勢いのいいひこばえがいっぱいにのびて、豊かに緑をふきだしている。
さわやかな風が、その緑の新芽のあいだを吹きわたるとき、そしてその緑濃い茂みがなびいては戻るとき、愛情に満ちた若わかしい想像力は、そこにいまも、トリルビーがジャニーの墓の前でつくため息を聞きとることができるだろう。
愛するものをかちうるには、そして愛するもののために泣くのには、千年なんて、ほんのわずかのときなのだ!……
ノディエ幻想短篇集
著者名:ノディエ(著)
篠田知和基(編訳)
出版社:岩波書店
出版年:1990.03
ISBN :9784003258712
